消費者契約法改正に関する消費者委員会の答申に対する当団体としての見解

2016年1月7日に内閣総理大臣あてに提出された、消費者契約法改正に関する消費者委員会の答申に対する当団体としての見解をまとめました。

 

当団体としての見解の全文PDFファイルは下記からダウンロードできます。

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また、見解内容を下記に転載しておりますので、こちらもあわせてご確認ください。

消費者契約法改正に関する消費者委員会の答申に対する当団体としての見解


消費者契約法(平成12年施行)については、平成26年8月に内閣総理大臣より消費者委員会に対する諮問にもとづき設置された専門調査会において、必要な改正に関する審議が続けられてきました。昨年平成27年8月には中間とりまとめが公表され、これについての意見受付が実施されたため、消費者のみらいを考える会においても、法改正による消費者行政への影響の大きさに鑑みて、その他の消費者団体と同様に、これに対する意見書を提出いたしました。

 

※ 私たちが提出した意見書のポイントは、今まであまり意識されてこなかった「最大多数の消費者の利益を最大化」できるような方向での議論をすすめて頂きたいという点にあります。従来の画一的な「弱い消費者」像を前提とした法制度が現代において適切であるか否か、という視点から様々な問題提起をさせて頂きました。

  消費者契約法 中間とりまとめに対する意見

 

かかるプロセスを経て、今年の1月7日、消費者委員会より消費者契約法の法改正等についての最終的な答申が行われました。この答申においては、法改正を行うべきとされた論点が計5点あり、その答申の内容に基づいて改正法案が策定された上で、早ければ現在の通常国会に提出されることとなりました。

 

そこで、私たちも、意見書を提出した立場から、その答申の内容(計5点の改正点)を検証し、私たちの提言との整合性について総括させて頂きます。

 

(1)法第4条第4項(「重要事項」の追加)

まず、現行法では、「重要事項」について不実告知(事実と違うことを伝えること)がなされたり、不利益事実の不告知(本人にとって不利益となることを伝えないこと)がなされたりした場合にその契約を取り消せるものとしています。

この点、今回の改正案では、「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」について事実と違うことが伝えられた場合にも不実告知による取消しを認めることになりました。

現行法では、契約が取り消されるような「不実告知」、「不利益事実の不告知」における「重要事項」は商品等の質、用途、対価、取引条件等に関する事実に限られており、契約を締結する動機はこれに含まれておりませんでした。

今回、契約を締結する動機も「重要事項」に含めるべきかという議論が行われたところではありますが、私たちは、消費者保護の観点から重要事項の拡張をする方向性には同意する一方で、契約を締結する動機まで「不利益事実の不告知」の対象となる重要事項に含まれるとした場合、事業者が過剰に情報表示を迫られることになり、逆に情報過多になることで消費者にとってむしろ不利益になるため、望ましくないという問題提起をしておりました。今回のとりまとめはその意味で私たちの提言に沿った改正案ということになります。

 

(2)新設(合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型)

次に、加齢や認知症等により判断力が不十分な消費者が不必要な契約をさせられたという被害が多いという実情を踏まえて、事業者が、消費者に対して、過量契約(日常生活において必要とされる分量・回数等を著しく超える契約)を締結させたような場合に、事業者において、その契約が過量であることを認識し、かつ過量契約を必要とする特別な事情がないことを知っているときに限って契約の取り消しを認める規定が新設されることになりました。

私たちは、消費者保護の観点から、新たに救済条項を設けることについては賛同しつつも、取消権の実効性を確保する観点から取り消し対象となる事情に関してできる限り客観的な形で示すべきだと主張すると同時に、悪意ある消費者による乱用を防ぐため、単に消費者の「知識の不足」をもって簡単に契約を解除しうる規定を設けるのではなく、取消しを主張できる「消費者側の状態」については客観的・限定的に定める必要があるとの見解を表明しておりました。

このたびの報告書では、規制となる販売形態が、不必要な契約の典型例のひとつである過量販売に絞られ、事業者の行為が具体的・客観的に示される方向になっており、私たちが求めていた方向性と合致した内容となっています。

 

(3)法第7条第1項(取消権の行使期間)

さらに、現行法では、消費者契約においては自らの誤認に気付いたときもしくは困惑の状態を逃れた時から6カ月以内に取消権を行使しなければならない(消費者の権利、取引の安定両方の趣旨を踏まえて長期の行使期間については5年)と定められているところ、取消権の行使期間を過ぎてから相談にくる消費者が一定数存在するとして行使期間が1年以内へと変更されることになりました。

私たちは、取消権行使の機会を確保することの重要性は当然のことながら理解する一方で、消費者間の不公平感を生み出さないよう、何年も前に締結された契約の取り消しを認めることのないように提言しておりましたので、取消権の行使期間を1年に伸ばす一方で長期の行使期間の伸長を見送った今回の内容は、私たちが求めていたものに沿う内容となっています。

 

(4)新設(不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果)

現行法では、意思表示が取り消された場合、消費者は原則的に現存利益の範囲で返還義務を負う(民法703条)とされておりますが、昨年から国会で議論がなされている新民法(民法改正案)では意思表示が取り消された場合、双方当事者が原則原状回復義務を負うこととされ(第121条の2)、返還義務を負う範囲が広がるのではないかと懸念されておりました。そこで、報告書では、民法の改正の有無にかかわらず、当該消費者の返還義務の範囲を現存利益に限定する旨の規定を設けることとされました。

この論点について、私たちは、いまだ新民法制定の議論が進んでいない現状において、直ちに法改正による手当を必要とするという判断はしておりませんでしたが、今回の提言のように、民法の改正の有無にかかわらず「現存利益」の範囲で返還すればよいと明記する規定が設けられるとすれば、今後の法改正を見越して消費者保護の観点から一歩進めるものといえ、消費者にとって望ましく、私たちの考えに沿うものといえます。

 

(5)法第10条(不当条項の類型の追加/消費者の利益を一方的に害する条項)

最後に、現行法では、法8条9条に規定する条項以外に消費者の利益を一方的に害する条項を無効と規定しています(第10条)。今回の報告書では、この要件が抽象的であり、契約当事者双方の予見可能性を高め、紛争を予防する必要があることを理由として、2つの方向性が示されています。

まず、1点目としては、消費者の解除権・解約権を放棄させる条項の中でも、事業者の債務不履行や対象となる物やサービスに瑕疵があるなどの場合の解除権をあらかじめ放棄させる条項については消費者の利益を一方的に害する条項だとして無効とする規定を新設しようというものです。次に、2点目としては、第10条前段に、消費者の積極的な行為がないことをもって、新たな契約の申し込みや承諾の意思表示をしたとみなす条項を例示として追加するという内容です。

私たちは、安易な不当条項類型の追加に関しては、インターネットサービスなどで消費者の安全安心な利用環境を提供するため、悪質な利用者に対し解除や解約を行っているようなケースまでをも規制することにならないか、また現場において追加された規定が悪意のある消費者の側に濫用されることによって一般の消費者に不利益が生じないかという懸念を表明しておりましたが、先ほどの第1点目については、内容が極めて限定的かつ範囲が明確であるため、事業者の悪質な利用者への対策に影響が及ぶものではなく、悪用される懸念もあまりないことから、特段問題ないものと認識しています。

他方で、第2点目ですが、消費者の積極的な行為がないことをもって、新たな契約の申し込みや承諾の意思表示をしたとみなすケースというのは、消費生活では決して珍しいことではなくなっています。雑誌の定期購読やストレージサービスの自動更新などは、むしろ消費者の利便性を高めるという点で、多数の消費者に受け入れられてきたものであるともいえます。最終的には後段の信義則に反するかどうかの判断をする必要があるとされてはいますが、今回の改正を通じて、特に「任意規定に比べて消費者の権利を制限する」例として明示されることで事業者がサービスを提供することを躊躇することにならないか、消費者の選択肢を狭めるようなことにならないか、強く懸念を感じています。そのため、こういった改正によって却って消費者の不利益が高まらないよう、今後の動向を見ながら、改めて提言して参りたいと思います。